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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2144号 判決

控訴人 株式会社ほりぶん

右代表者代表取締役 堀内文吾

右訴訟代理人弁護士 渡辺惇

被控訴人 清水一郎

右訴訟代理人弁護士 前島正好

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金三〇〇万円およびこれに対する昭和四三年一〇月一六日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、援用、認否は次のとおり附加するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

仮りに控訴人の主張する本件賃貸借契約の合意解除の成立あるいは契約解除による終了が認められないとしても、本件建物賃貸借契約は、昭和四四年五月一五日頃、被控訴人から控訴人に対する昭和四四年五月一四日付の契約解除の意思表示が到達したことにより終了している。控訴人は、被控訴人の右契約解除の事実を利益に援用するものである。そして右時期に契約関係が終了しているとすれば、本件金員の性質上、本件金三〇〇万円は返還されるべきであり、少くとも契約残存期間たる七年八ヵ月一五日分に相当する日割計算による金二三一万二、五〇〇円は返還されるべきである。

被控訴人の当審における主張は否認する。控訴人は被控訴人に対し当時本件建物を明渡した。

(被控訴人の主張)

控訴人の当審における主張は争う。仮りに控訴人の主張するいずれかの理由で解除されたとしても、解除前の賃料と解除後の損害金は本件金員から当然さし引かれるべきもので返還する分は存しない。

(証拠関係)≪省略≫

理由

控訴人と被控訴人との間に控訴人主張のような賃貸借契約が締結され、そのさい控訴人が被控訴人に対し金三〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いなく、控訴人の右賃貸借契約が被控訴人の債務不履行により解除されたとする主張、右賃貸借が合意解除され、そのさい被控訴人が控訴人に対し右金三〇〇万円の返還を約したとの主張の認めがたいことはすべて原判決理由において説示するところと同一であるからこれを引用する。

次に、≪証拠省略≫によれば控訴人は昭和四三年四月分以降の本件建物の賃料(一ヵ月九万円の割合)の支払をせず、被控訴人は再三これを催告したのに控訴人はその支払をしなかったので、被控訴人は控訴人に対し昭和四四年五月一四日付内容証明郵便をもって右不履行を理由として本件店舗賃貸借契約を解除する旨の意思表示を発し該書面は翌五月一五日頃控訴人に到達した事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、控訴人被控訴人間の本件賃貸借契約は昭和四四年五月一五日に終了したものと認めるのを相当とする。控訴人は本件賃貸借が終了したことを前提とし、本件三〇〇万円はいわゆる敷金の性質を有するものであるから被控訴人は控訴人に対し右金員を返還すべき旨主張するのでこの点につき判断するに、≪証拠省略≫には右金員は敷金である旨右主張にそう部分があるがたやすく措信しがたく、かえって≪証拠省略≫をあわせれば本件三〇〇万円は、後記のとおりの趣旨のものであって、やはりいわゆる権利金の一種として支払われたものであることが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

しかして、≪証拠省略≫によれば、右権利金の支払によって控訴人の取得したのは、本件賃貸借契約を締結しえて爾後約旨の賃料を支払うことによって賃貸借期間たる一〇年間本件店舗で営業できるという地位であることが認められ、これと本件においては他にいわゆる敷金の差入れのなかったこと(弁論の全趣旨から明らかである)をあわせ考えれば、本件三〇〇万円は、本件店舗の場所的利益の対価と賃料の前払い的性格にあわせて賃料の未払その他の損害に対する保証の趣旨を兼ね備えたものであると解するのが相当である。そうだとすれば、右金員は賃貸借の途中終了の場合は賃借人はその未経過期間に対応する部分についてはその返還を求めうべきものであると同時に、そのさいもし未払賃料および契約終了後の損害金その他の損害の未払があれば賃貸人としては当然これを差引きうべきものと解すべきであるところ、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は昭和四三年三月以降本件賃料を支払っていないことが認められる上、本件全証拠によっても控訴人が当時被控訴人に本件建物を明渡した事実を認めることができないので、結局昭和四三年三月から昭和四四年五月一五日までの一ヵ月金九万円の割合による未払賃料および昭和四四年五月一六日以降今日までの同一割合による賃料相当損害金を合計すれば優に右三〇〇万円の前記未経過期間に対応する部分を超える金額となることが明らかであるから、控訴人に返還すべき分は存しないこととなり、いずれにしても控訴人の請求は理由がない。

よって控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴は理由のないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 園部逸夫)

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